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文章表現400字からのレッスン (ちくま学芸文庫)

文章表現400字からのレッスン (ちくま学芸文庫)

この本面白い!!梅田卓夫さんの教える事への愛と、文章に対する情熱が伝わってきて、読んでいてワクワクする♪分かりやすい説明で、誰でも試してみる事が出来る☆

自分もこれからこの場を借りて、いくつか書いてみたい。


第一作品は、最初の記憶について

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題 「バスの中」

これからどこに連れて行かれるのかも、はっきりしていないまま、一人馴染みのないバスにぼんやりと身を委ねている。

真新しい黄色い帽子を被り、まだ小さな体には大きい青黒いビニールシートの後部座席に座りながら僕は車窓を一人で眺めている。

隣の子は何をしていたんだっけ、それともそこには誰も座っていなかったのか。
前には同じ黄色い帽子を被った同い年の子が僕の耳には届かない会話を楽しんでいる。

限りなく無音に近い。ヤシの木が太陽の光でぼやけながら無数に窓を通り過ぎていく。
白にも見えるヤシの木をただ呆然と眺めがら、僕の小さな頭はまだ頼りない想像力に任せ、これから始まる「お勉強の時間」とは一体何物なのかを必死に理解しようとしている。

こんなに考え事をしたのも、一人で見知らぬバスに乗ったのもこの日が初めてなのかもしれない。

幼稚園って一体なんだ??
「あぁ、これから"お勉強"が始まるのか。もう遊びの時間は終わりかな。」

幼稚園初日、諦めに近いため息と、それでも必ずそばにいる好奇心が不規則に入れ代わりながら、僕は初めて「勘違い」をした。


 自分はいつも一人になると、平気で冷静に勘違いをする。その性格は今も昔も変わっていない。